労働条件の変更(引き下げ)・不利益変更とは?
賃金・退職金、労働時間、有給休暇等の労働条件の引き下げを原因とするトラブルは、厚生労働省が管理している都道府県労働局や各労働基準監督署などに寄せられた総合労働相談(労働問題に関する相談)件数のうち26,000件を超えています。
労働条件を安易に決定や変更(引き下げ)することは、会社と従業員との間にトラブルを生じさせる原因となります。
労働条件を明示していますか?
労働条件が明確にされていないと、経営者と労働者の間に理解のくい違いが生じ、トラブルを引き起こすおそれがあります。
そのため、労働基準法により事業主は労働者を雇用する際に、労働条件を明確にし、書面によって明示する義務があります。
書面によって明示することが義務付けられている労働条件
【労働契約の期間に関する事項】
- 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
- 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに交替制の就業転換に関する事項
- 賃金の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払いの時期に関する事項
- 退職に関する事項 (解雇の事由を含む)
労働条件の変更(引き下げ)は可能?
経営業績の悪化や、企業競争力のアップ、人員構成の変化、法律の改正などにより、賃下げ、退職金を減額・廃止、正社員から契約社員への変更など労働条件の変更(引き下げ)が必要になる場合があります。これは、労働者にとって不利益変更に該当するため、会社が一方的に行うことはできません。
その変更の程度や必要性、会社の対応など合理的判断が求められています。
労働条件の不利益変更が認められる合理的判断(基準)
- 変更によって被る従業員の不利益の内容と程度
(軽微な不利益は認められます。)- 変更の経営上の必要性
(変更しなければ経営状態に重大な悪化を及ぼす場合など)- 代償措置など変更との関連でなされた他の労働条件の改善状況
(例えば、定年の引き下げに対し、退職金の増額など)- 労働組合・労働者との交渉の経過
(変更にあたり、会社と労働者で話し合いがあったかどうか)- 同じような事項に関する一般的状況等
(労働条件の引き下げが社会的に見て妥当なものか否か)
不利益変更をするには?
就業規則の作成・変更による労働条件の不利益変更
就業規則の不利益変更は原則として無効です。しかし、不利益変更に合理性がある場合には有効とされています。なお、労働基準法により、就業規則の作成(変更)には、労働者の過半数で組織する労働組合か、労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聞かなければならないことにいます。
一方的に変更されてもこのような手続を欠いている場合には、無効となります。
就業規則もない場合の労働条件の不利益変更(個別的合意)
労働者の個別同意がない限り無効です。もちろん、同意は、労働者の自由な意志に基づいてされたものでなければなりません。会社は、変更の必要性の内容・程度、代償措置など合理性を十分に説明する必要があります。
身分の変更(降格や配転などの人事異動・懲戒処分など)による労働条件の不利益変更
- 懲戒処分としての降格を理由とした賃金の切り下げ
懲戒処分として有効であることが必要です。懲戒処分として有効の基準は次のとおりです。- 就業規則による定めがある
- 就業規則の定めの要件に該当する
- 当該労働者の弁明の手続きなどを実施する
- 降格の内容に合理性(公平性)がある
- 人事上の措置としての降格を理由とした賃金の引き下げ
人事権の濫用にならないことが必要です。人事権の濫用か否かの判断材料は、次のとおりです。- 業務上・組織上の必要性の有無と程度
- 能力や適正の欠如など、労働者の責任の有無と程度
- 降格により労働者の受ける不利益の性質と程度
- 当該企業における昇進・降格の運用状況
- 配転に伴う賃金の引き下げ
労働者の同意や、就業規則による定めが必要です。配転により直ちに賃金切り下げになるものは認められません。もちろん配転が有効であることも必要です。就業規則に定めがあることや、会社の業務上・組織上で配転が必要であるなど合理性が求められます。
労働条件の変更は慎重に進めていくことが必要です。安易な労働条件の決定や変更は避けて、会社と労働者の間の無用なトラブルを防ぐことが得策です。
橋本事務所では、労働条件の変更によるトラブルの解決だけでなく、トラブルをあらかじめ避ける対策をご提案しております。トラブルが発生して、会社の経営に支障をきたさぬように、早めの対応をお勧めします。
労働条件の引き下げについて、ご不明な点等がございましたら、橋本事務所までお気軽にお問い合わせ下さい。